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『スティーブンズアイランド・レン』 鳥の視点@NZ写真館 #6 ~Beyond the brink~

『スティーブンズアイランド・レン』 鳥の視点@NZ写真館 #6 ~Beyond the brink~_e0041624_161176.jpg

(写真はrock wren)

名称:Stephen’s island wren
ステータス:絶滅
生息地:ステファン島 (Marlborough soundの最北部)

大陸から隔絶されているニュージーランドで独自の進化を遂げた、一種の小鳥の話。

ステファンズアイランド・レン。この鳥は、世界で唯一の、”perching birds”、燕雀目(木にとまるのに適した足を持つ鳥類の総称) ながら飛ぶことの出来なかった鳥類。

1894年、ステファン島の灯台守の飼う一匹の猫が、見たこともない一羽の小鳥をくわえて戻ってきたことで新種『ステファンズアイランド・レン』の存在が明らかになった。
(新種、という表現自体、人間本位の言葉ではあるが。)

そして同時に、この一匹の猫がまた、絶滅への引き金を引いた。
全17匹、地球上に存在する全てのステファンズアイランド・レンを、この猫が殺してしまったのである。

一匹の猫に発見され、そして絶滅させられた生物種がいることを、人間は知っておくべきだ。これも人間に確かな知識さえあれば、防げた悲劇である。

~Beyond the brink~
it was both discovered and wiped out by a lighthouse keeper’s cat in 1894.
(book『back from the brink』より抜粋)

************

人類がNZの地に足を踏み入れる以前、NZには245種の鳥類がいたらしい。
驚くべきは、この245種のうち174種、実に7割が固有種であったということだ。
なぜこれほど割合が高いのかはこのカテゴリの第一回目で説明したのでここでは省略するが、この固有種の多さは、実は“亜種”の多さとも言い換えることができる。
NZの鳥類は、驚くほどの数の亜種に分かれて存在している。
例えるならば、「方言」と同じようなものだ。住む場所が違えば、そこで話される言葉も少しずつづれてきて、ついにはその地方独特の“訛り”ができる。
同じように一種の鳥類でも、住む場所が異なるにつれ一種の中に地域性が生まれ、やがて本家からはズレて、独自の特徴を持つ“亜種”となる。
哺乳類が進化するずっとずっと昔から超大陸から離れて島となっていた、NZ。その辺境の土地で進化した鳥類独特の現象だ。
有名な絶滅種、飛べない鳥であるモアが、かつて11種類もの亜種に分かれてNZ中に分布していたのはそれを象徴しているようだ。

同じように、NZで独自の進化を遂げた(近縁種が世界のどこにもいない)、WREN(和名:イワサザイ科)も、6種類の亜種に分かれて生息していた。今回紹介したステファンズアイランド・レンもそのうちの一種だ。特定の島の名前が付いてはいるが、かつてはNZ全土に生息していたことが判明している。つまり、このステファンズ島という小さな島が、このレンにとって外敵のいない最後の聖地であったということだろう。そして、ついにこの島にも、飼い猫という皮肉な形で本来いないはずの外敵がもたらされたのだ。
現在6亜種のうち4種が絶滅したが、現在でもRock wrenとriflemanという種は辛うじて絶滅を免れ、人の手のあまり届かない山岳地帯に生息している。(手元の鳥図鑑の示すrock wrenの生息度数は、0~100の中で1。Riflemanでもわずか15しかない。)

何より面白いのは、これらのレンが、鳥類というより哺乳類、特にネズミに近い生態をしていることだ。これは「哺乳類」という頂点を欠いた生態系ピラミッドを持っていたNZならではの現象で、哺乳類の代わりに鳥類がピラミッドの頂点に立ち、進化の過程であたかも哺乳類のような振る舞いを始める鳥類が出てくるようになったことによる。
現在も生き残っているロック・レンは、ほとんど飛ぶことをせずもっぱら高山地帯の山岳部を歩き回って生活し、鳴声もほとんどネズミ同様の小さく甲高い声で「キーキー」と発し、さらには歩きやすいように足まで変化してしまっていると言う。ステファンズアイランドのレンに至っては全く飛べなかった。まさに、鳥類を飛び越え哺乳類に当たる生態的地位を獲得していたのである。
歴史に「もし」はないが、仮に人間がニュージーランドの地を発見することなく、この先も数千年の時が流れていたとすれば、いったいこの国にはどんな生物が進化することになったのだろうと、興味を覚えずにはいられない。

人間がニュージーランドの地に定住を始めてから、700年以上が経過している。その間に、約50種もの鳥類が絶滅したらしい。そのすべてにスポットライトを当てるわけにはいかないが、いくつか興味深い種を取り上げて、順次ここで紹介していこうと思っている。

参考図書「which NZ bird」「back from the brink」
参考URL「New Zealand birds and birding」http://nzbirds.com/
 
by Mr-chirujirou | 2006-12-23 16:03 | NZ - 鳥の視点@NZ鳥図鑑